週刊金曜日 2001/8/24 号

問われている私たちのこれから 『週刊金曜日』編集部

 今回の件で、編集部の対応には多くの問題がありました。まず当該記事の掲載時に、編集部内で充分な議論を尽くさなかったこと、抗議を受けた後も、何回も編集部内で、あるいは編集委員を交えて話し合いを持ちながらも、どのように対応するかの意思統一に時間がかかったこと。私たちがすこたん企画に対していかに礼を失していたかは、六月一六日に抗議を受けながら、その一〇日以上も後の六月二八日にお会いしたい、と申し出た例で明らかだと思います。大変失礼な対応だったと、お詫び申し上げます。
 抗議内容について話し合った結果、このような特集を組むべきだと判断しました。今回の件は、「オカマ」という言葉をタイトルに使用したことに端を発したものです。この点について私たちがどのような議論を交わしたかについては、十三〜十五ページをご覧いただければと思いますが、「差別をはねかえそうとする東郷健さんの記事だからこそ使ったので、傷ついたというだけで反省するのはおかしい」という意見と、「意図はどうあれ、傷ついた人がいるのだから反省すべきだ」という意見とに分かれ、、「タイトルに関してもっと配慮すべきであった」という意見が主流になるまでは、私たちなりの時間と議論が必要でした。もちろん私たちもメディアの一員ですから、抗議を受けた言葉や、その表現方法について考えるのは重要ですが、メディアという立場にこだわるあまり、まず抗議者に対して迅速な対応をしなければいけない、という点に思いがいたりませんでした。
 もちろん、一九人の編集部が一つの考えにまとまるのは困難ですが、何はさておいても、まず、自分たちの表現や言葉が相手の心をなぜ傷つけたのかを考え、何が問題だったのかを明らかにするところから出発しなければ、表現をめぐる議論も相互理解も何も始まりません。
 タイトルに「オカマ」という言葉を使ったのは、「オカマ」という言葉で自己を自認している東郷健氏を紹介するにあたって避けて通れない言葉である、本文を読んでもらえれば、なぜタイトルに使用したかわかってもらえるのではないか、というものでした。また、370号(七月六日)の「金曜日から」にもあるように、「オカマ」という言葉で自己を自認する人の生き方を特別視する気持ちがないかどうか、この記事を通して気づいてほしい、という判断からでした。これらの意図にある種の甘さがあったことは否めませんし、現実にはこれらの意図は伝わらなかったということですから、表現として充分意を尽くせていなかったのではないか、本文中でももっとこれらの意図について触れられたのではないか、という点について反省しています。
 ただ一点、すこたん企画の主張は重々理解した上で、私たちには「差別・偏見をなくすために何が本当に必要なことなのか伝えたい」という思いがあります。この特集中でも触れられているように、さまざまなメディアで日々行われているセクシュアル・マイノリティへの差別助長をなくさなければいけないと思いますし、それはメディアと当事者が一緒にやっていって、はじめて力を持つと思います。もちろんすこたん企画は、「オカマ」という言葉そのものを否定しているわけではありません。しかしその主張を拡大解釈すると、メディアにとっては「自主規制」「言葉狩り」という方向になりかねない問題です。『週刊金曜日』としては差別を再生産することもあるメディアの一員であると常に意識しながらも、方向を間違えてはいけないと思うのです。
 編集部の、 セクシュアル・マイノリティへの差別や偏見は理不尽なものと思い、差別や偏見をなくしたい、という方針に偽りはありません。そのためにも、すこたん企画や東郷健氏はじめ、当事者の方々と忌憚のない意見交換をしたいと希望しており、引き続き企画も取り上げたいと考えています。が、少なくともその前提として、「人を傷つけることがある」という自戒を常に持ち、また万が一、人を傷つけてしまったときは、なぜかを確かめて誠実に対応しなければならないと思っています。この共通認識を持つという点について、編集部は充分ではありませんでした。
 今回の件に限らず、どのような表現でも人を傷つける可能性があります。今回の特集も、人を傷つける可能性があるかもしれません。しかし『週刊金曜日』はメディアとしての責任を背負いつつ、萎縮したり過度に自主規制したりすることなく、差別をなくすために本誌にしかできない報道があると信じて、これからも努力いたします。

 今回の件に限らず、どのような表現でも人を傷つける可能性があります。今回の特集も、人を傷つける可能性があるかもしれません。しかし『週刊金曜日』はメディアとしての責任を背負いつつ、萎縮したり過度に自主規制したりすることなく、差別をなくすために本誌にしかできない報道があると信じて、これからも努力いたします。