米アカデミー賞
「ブロークバック・マウンテン」3部門に留まる

by 石田

 米映画界最大の祭典「第78回アカデミー賞」授賞式が5日、ハリウッドに拠点を置くアメリカ映画芸術科学アカデミーの主催で行われた。今回の授賞式は、二人の男の深く、長年にわたる愛を描いた映画「ブロークバック・マウンテン」の、アン・リー監督への最優秀監督賞を含む3部門での受賞に代表されるように、最も同性愛色の強いものでもあった。

 アジア人で初めて監督賞を受賞したアン・リー監督(台湾出身)は受賞スピーチの中で、「社会で認められない男性/女性同性愛者たちの愛」の大切さを示してくれたと、「ブロークバック〜」の作家を賞賛した。また、映画の主人公たちにも触れ、「イニスとジャックの二人に感謝したい。二人は我々に社会に存在するゲイやレズビアンについてだけでなく、愛そのものの大切さについて教えてくれた」と語った。

 お互いの結婚生活にも関わらず、二人のカウボーイが20年以上にわたり貫いた愛を描いた壮大な映画「ブロークバック・マウンテン」は、脚色賞(ダイアナ・オサナ、ラリー・マクマートリー)と作曲賞(グスタヴォ・サンタオライヤ)も同時に受賞した。ノミネートは8部門だった。

 同映画は最優秀作品賞の本命とされてきたが、「同性愛を扱った映画は作品賞を獲れない」というオスカーのジンクスは破れず、結局その名誉を手にしたのは米社会に潜む人種差別を扱った「クラッシュ」だった。

 「ブロークバック・マウンテン」は、テーマから上映を拒否する映画館チェーンが現れるなど、人気と同時に反発も多かった。同映画に出演し、アカデミー賞でも助演女優賞にノミネートされた米女優ミシェル・ウィリアムズ(25歳)は、カリフォルニア州のキリスト教系の母校から「卒業生がゲイをテーマにした映画で苦悩する女性を演じたのは非常に不愉快。当校の価値観とは異なり、一切かかわりを持ちたくない」と絶縁宣言された。


 主演男優賞は多くの実力派候補者が肉薄する中、「カポーティ」でゲイの作家トルーマン・カポーティが、ノンフィクション小説の名作「冷血」を完成させるまでの様々な側面を怪演したフィリップ・シーモア・ホフマンが受賞した。同作品での彼の演技は、世界中で賞賛され、ほぼ全ての主要な主演男優賞を制覇しており、この受賞も当然の結果だった。

 「今年はLGBTを題材にする映画にとって重要な年だった。(今年の受賞作品は)どれも、同性愛者と異性愛者の観客を一様に結び付ける、感情に訴える迫真性を備えた映画ばかり。同性愛者たちの話を広めることで、今年のアカデミー賞ノミネート作品は、LGBT問題の認知度を高めることを助け、そして我々の真の姿を何百万人ものアメリカ人により深く理解させた」と、「中傷と戦うゲイ・レズビアン同盟(GLAAD)」のネイル・G・ジュリアーノ代表は語った。

 「トランスアメリカ」の中で、自身と自身の家族との折り合いをつけていくトランスジェンダーの女性という画期的な主人公を演じたにも関わらず、フェリシティー・ハフマンは主演女優賞の受賞を逃し、賞は「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」で伝説的カントリー・ミュージシャンを演じたリース・ウィザースプーンに送られた。

 それでもなお、ハフマンの演技は、トランスジェンダーの認知度を高める画期的なものであることには変わらない。

 「この映画の成功により、トランスジェンダー問題に関して、数え切れないほどの話し合いが行われるきっかけができた。フェリシティーの素晴らしい演技に加え、インタビューでの彼女の優雅さや寛容さのお陰で、トランスジェンダーの人々の生き方に関する重要な質問を、記者達が躊躇することなく投げかけられた」と「全国トランスジェンダー平等センター(National Center for Transgender Equality)」のマラ・ケースリング代表は述べた。


 今年のアカデミー賞受賞候補作品の中での同性愛テーマの突出は、式典期間中を通し政治的な点数を稼ぎ、そして冗談まで言える雰囲気を作った。受賞式典でホストを務めたジョン・スチュワートは冒頭の司会の中で、「カポーティ」を「ブロークバック・マウンテン」との引き合いに出し、「ゲイの男性の全員が男らしいカウボーイではなく、中には女々しいニューヨークのインテリだって実はいるのだ」と全米に教えてくれたという冗談を飛ばしたりした。

 世界的なリベラルな教会組織「メトロポリタン・コミュニティ教会(Metropolitan Community Churches)」を創設したトロイ・ペリー牧師を含む、結婚の平等を訴える活動家グループは4日、今回ノミネートされた候補者の中で、ゲイ/レズビアンやトランスジェンダー、あるいは斬新的なテーマの作品へのアカデミー賞授与を肯定する候補者たちを指名し、同性婚への支持を「公でカムアウト」するよう依頼した。これは、活動家グループたちが受賞スピーチでの政治的発言の伝統を利用できればと期待してのものだったが、受賞者がスピーチで同性婚問題に触れることは一度もなかった。

 今回のアカデミー賞授賞式では、思いもかけぬような組み合わせのLGBTテーマを扱った映画が受賞候補に挙がったが、ゲイやトランスジェンダーの主人公を力強く描写した3つの違う映画が同時にアカデミー賞にノミネートされた初の年となった。

翻訳&記事の解説:石田 京介
(石田 京介:カナダ在住/翻訳スタッフ)

 

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