チームS:シェイダさん救援グループ 2003/04/13 up
 
出典は「広辞苑」? 驚くべき法務省の書面
〜3月18日:シェイダさん在留権裁判第17回口頭弁論〜

 アメリカからエグテダーリさんが来日し、80人以上の傍聴者であふれた2月18日の 第16回口頭弁論。3月の法廷は、それから一転して、こじんまりした規模で行われま した。
 3月18日の口頭弁論の目的は二つありました。一つは、エグテダーリさんの証人尋問を受けて、これに関連する証拠資料を原告・被告双方が提出すること。もう一つは、被告の法務省側が、「同性愛者は『特定の社会的集団』にあたるか」という裁判所から課せられた宿題にこたえるということです。

 
□■□原告側、死刑に関わる証拠資料を追加提出□■□
 この法廷で、原告シェイダさん側は、エグテダーリさんが尋問において挙げた同性愛者の死刑の事例に関する新聞記事を3点、むち打ち刑の事例を1点提出しました。
 一方、被告の法務省は、「石打ち刑は拷問にあたるか」という裁判所の宿題について、前々回の法廷で、「石打ち刑はイランでは合法な処罰である。一国で合法とされている処罰が拷問に当たるとするためには、その処罰方法が拷問にあたるという解釈が、国際法上の公式文書などで示されている必要があるが、石打ち刑については、これを拷問と定めている公式文書は見あたらないため、石打ち刑が拷問であると言うことはできない」と主張する文書を提出しました。
 この法務省の主張については、後でじっくり反論するとして、原告側は、石打ち刑がどのような残虐な処刑方法かを実際に立証するために、今回、エグテダーリ氏がカナダのモントリオールにある「モントリオール・イラン人女性協会」から入手した、石打ち刑の映像を収録したビデオを提出しました。
 迫害に関わる証拠の収集・作成にあたっていていつも感じることは、シェイダさんの、また、一人一人の難民の庇護の実現には、その前提として、多くの同胞たちの屍が『必要』になる、という冷酷な事実です。申請国(この場合、日本)の難民認定の基準が厳しければ厳しいほど、一人の人の庇護を認めさせるために、より多くの暴力の、拷問の、死の痕跡が必要となる。証拠集めに奔走するうちに、いつしか、証拠に記された暴力の痕跡に何の痛痒も感じなくなっていく……。
 証拠資料、様々な痕跡に残された彼らの暴力、拷問、死の果てに、ひとつの「命」の保障の可能性を見いだす……難民裁判を闘うものにとって、難民制度とは、交差しそうでいて、どこまで行っても交差することのない、現代世界の「命の微分法」だとすら感じられることがあります。しかし、そうであるがゆえに、この闘いに負けるわけには行かないのです。
 
□■□法務省の驚くべき書面□■□


 今回の法廷で一番驚かされたのは、法務省が「特定の社会的集団」に関して提出してきた書面です。
 難民条約には、「特定の社会的集団」の構成員であることを理由として、十分に理由のある迫害の恐れを持つ者を難民と認めるとの記述があります。裁判所は、「同性愛者」は「特定の社会的集団」に該当するかどうかについて、原告及び被告に説明を求めました。原告側は、米国における「特定の社会的集団」に関する難民認定上の解釈の変遷についての論文や、英国・ドイツ等において、同性愛者を「特定の社会的集団」と認めた判例、また、ヨーロッパ評議会(CoE)の審議会がヨーロッパ各国の「特定の社会的集団」に関する裁判上の解釈を調査した文献などを収集し、これらを証拠資料として提出してきました。これに対して、法務省側はいったん、同性愛者が「特定の社会的集団」を構成することに対して「争いはない」と述べましたが、前々回の法廷で主張を一転、「争う方向で考える」と言い出し、今回の書面提出に行き着いたものです。
 ところが、法務省が提出した書面には、各国の判例や、各国で積み重ねられてきた「特定の社会的集団」に関する解釈の変遷など全く載っていません。代わりに載っているのは、「(集団とは)規則的・持続的な相互関係を持つ個体の集合。団体」とする「広辞苑」の記述です。法務省は、これまで各国で積み重ねられてきた難民条約の解釈の理論など眼中になく、「広辞苑」ひとつをもって「同性愛者は『特定の社会的集団』ではない」と主張しようというのです。
 あまりの惨めさに愕然とさせるような書面ですが、「ライオンはネズミをとらえるにも全力を尽くす」とも言います。次回の法廷は、この書面への反論の書面を提出するための法廷です。当方としては、反論に全力を傾けたいと思っています。
 次回の法廷は、5月8日(木)午前10時30分、東京地方裁判所第606号法廷です。皆様、ぜひとも法廷でお会いしましょう。

 

■□■ シェイダさん在留権裁判第18回口頭弁論 ■□■
 ○日時:2003年5月8日午前10時30分〜
 (集合時間:午前10時)
 ○場所:東京地方裁判所6階606号法廷
 (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) 
■□■ 第18回口頭弁論報告集会 ■□■
 ○日時:2003年3月18日11時〜
 ○場所:弁護士会館(予定)