カナダへの移住を考え始めた米国の同性愛者

by ワタル

 今月始めの辛辣な選挙敗北を受けて、今後を憂慮しているアメリカの LGBT は何をすべきなのだろうか? 潔く白旗を揚げ、政治的優勢を握った宗教保守派を受け入れるべきか? 平等への戦いを続けるべきか? それとも、親切な左派のいるお隣の国で新しい生活を始めるべきか? 資力を持ち合わせている多くの人は、3番目のオプションを考え始めている。

 「今月始めの選挙以来、カナダへの移住に関する問い合わせは30%も上昇しました。カナダと米国の2国間には、社会的、政治的文化における大きな隔たりがあります。カナダでは平等への道を歩み始めているのに対し、アメリカにおける平等は、もう絵空事のようになってしまっています」と話すのは LGBT の移住を専門とするトロントの弁護士、マイケル・バティスタさん。

 カナダの LGBT 政治ロビイスト団体、「EGALE」では、同様にアメリカ人からの移住に関する問い合わせが増えている。「電話をしてきたある男性はひどく取り乱していて、以前はアメリカも周りの人たちも好きだったが、今は裏切られ、追い出されたような気分だと語っていました。あと1ヶ月ほどで彼のような人たちが移住を決意するかわかると思いますが、現在はかなりその決意をする方向に向いているように感じます」と「EGALE」のスポークスマン、エルさん。

 多くのアメリカ人の LGBT がカナダへの移住を考えているのは、結婚の平等が一番の理由にある。「今回の選挙以前からも、同性婚が合法になった昨年から、カナダの市民権取得には多くの関心が寄せられていました」と語るのは、ニューヨークを拠点とする LG 移民の権利を守る団体「入国管理平等」の法律ディレクター、ビクトリア・ニールセンさん。

 ニールセンさんによると、「最も一般的なシナリオは、アメリカ人と外国人のカップルの場合でしょう。アメリカでは結婚することができませんが、2人のうち1人が最低限の基準を満たせば、2人ともカナダの国民になり、カップルとして移住することができます」。

 カナダが、結婚したいゲイやレズビアンにとって、より親切な法制環境を提供してくれることは間違いないだろう。2003年に最初にカナダの州で結婚の門が開かれたその数日後に、米国で反ソドミー法が却下されたことを考えると、この2つの国に大きな違いがあることが如実にわかる。ここ1年と少しの間に、80%以上のカナダ国民が婚姻の自由を享受してきたが、米国では、マサチューセッツ州の同性婚法を他の州が取り入れるといったドミノ効果を阻止しようと、共和党の代表らが躍起になっている。

 バティスタさんによると、市民権を得るためのカナダの資格条件はそれほど厳しいものではないという。法的手続きが終了するまで最長で2年かかる可能性があるが、高齢者を除く、大学の学位を持つ、英語またはフランス語が堪能な人であれば、カナダ国民になることができる。

 だがアメリカに住む大半の LGBT が、すぐに荷物をまとめて移住できるわけではない。またそうしなければならないという理由もないだろう。そんな人たちにも希望、そして多くのやるべきことがある、と「人権キャンペーン」のスポークスマン、マーク・シールズさんは話す。

 「たった1回の選挙が、現在急速に平等へ向かっているこの大きな社会の動きを変えることはないでしょう。不幸なことに、公正な指導者らが現在少数派になってしまっているため、これからはさらなる努力が要求されます。今まで以上に、我々一人ひとりが友人や家族、普段あまり話さないような人にも働きかけ、理解を得られる関係を築いていく必要があるでしょう」。

 また「人権キャンペーン」では、信仰の厚いキリスト教団体などにも働きかけるため、新たな方法も考えていくとのこと。

 「どんな人権闘争もその進歩の過程では反発にあってきました。私たちはその時期にいるのです。今こそ LGBT のコミュニティが、腰を据えて立ち向かうときです」とシールズさんは語った。

翻訳&記事の解説:ワタル
(ワタル:東京都在住/翻訳スタッフ)

 

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