シドニー通信/デファクト・ビザ

by Felix

 先日、オーストラリアの永住権を手に入れました。そのビザについてレポートします。

 まず、最初に断わっておきたいのは、このレポートはあくまで自分の体験談であって、ビザのアドバイスなどを目的としたものではないということ。オーストラリアのビザ制度は常に変わっているので、専門家のアドバイスを受けることを薦めます。

 自分がオーストラリアに来たのは、7年前。まわりの反対を振り切って会社を辞め、いわゆる語学留学ということで、学生ビザをとって、シドニーの語学学校へ半年通った。その学校の途中で、こちらの日系の会社でバイトをはじめ、運良く学生ビザがきれる前に、その会社からビジネス・ビザのオファーがあり、学校が終わってからは、ビジネス・ビザでフル・タイムで働くことになった。

 このビジネス・ビザ、その当時は割と簡単にとれたのたが、ここ2〜3年の間にかなり厳しくなり、今ではビジネス・ビザの延長ですら、難しくなっている。

 その当時、自分はビジネス・ビザがきれたら日本に帰る予定でいた。そんな時出会ったのが、今のパートナー。彼は、自分とほぼ同じ時期にシドニーへやって来たニュージーランド人で、正直彼が自分の人生を変えたと言えるほど真剣なつきあいに発展していった。

 最終的には、二人で一緒に住むことになり、自分も日本に帰るという気は薄れ、できればこのまま二人でシドニーで暮らしていければ、と思いはじめたところだった。そんな頃、パートナーから永住権の話が出た。

 このオーストラリアでは、デファクト・ビザという同棲ビザのカテゴリーがある。結婚はしていなくても、同棲生活を1年以上し、二人が内縁関係であることが認められれば、その相手を配偶者としてビザを申請することができる。しかも、それは同性間でも認められる。

 そこで、二人で話し合い、このデファクト・ビザを申請することにした。

 実際、まわりの友達でこのカテゴリーで申請して永住権を手に入れたカップルが何組もいたので、彼等からのアドバイスを受けることにした。その中で出てきたのが「Gay and Lesbian Immigration Task Force」という団体。さすがゲイやレズビアンが多く住んでいるシドニー、こうしたサポート体制はしっかりしており、この団体が専門的なアドバイスを行なっている。

 毎月の最初の月曜の夜が、説明会で、早速その説明会に二人で参加することにした。会場は、ゲイ・ストリートで有名なオックスフォードにあるビルの一室。行ってみて驚いたのは、様々な人種のカップル。自分たちのように、白人とアジア人のカップルから、ヨーロッパ系、黒人、それにレズビアンのカップルも多く、みんな真剣に話を聞いていた。

 説明会では、二人の関係を証明するのに膨大な資料が必要で「とにかくストレスフルで、大変」と繰り返し言っていた。最後に、ビザ申請に関する手引書の販売と、入会についての説明があった。会員になると、ビザ申請に関する質問に答えてくれたり、申請前に申請書類を弁護士がチェックしてくれるということで、手引書を購入し、同時に入会することにした。料金的には手引書を含め55ドルだったので、この金額で弁護士からのアドバイスが受けられるのは、かなりリーズナブルだと思う。

 ここで、さすがオーストラリアと感じたのは、カップルによって、説明だけ聞いて帰る人、手引書だけ買って、後は自分たちで申請する人と、キッパリ分かれたこと。

 そして、その後は本当に大変だった。日本の警察からの無犯罪証明、オーストラリアの無犯罪証明、健康診断、友人からの二人が付き合っているという証明文、不動産から二人が1年以上住んでいるという証明、共同名義の銀行の口座、二人の名前で送られてきた郵便物、二人の名前の公共料金の支払い領収書などなど。さらに申請用紙の記入と、結局準備だけで半年もかかってしまった。

 とにかく、二人が本当につきあっているのかを証明しなくてはいけない。これが結婚だったら、結婚の証明があれば済んでしまうが、同棲となるといくつもの証明が必要になってくる。さらに、二人で旅行に行った写真や、航空券なども提出した。自分はあまり物を捨てない性格だったから、二人の名前の入ったチケットや泊まったホテルの領収書などが残っていて、かなり助かった。

 他にも、日本語で書かれたものは全て英語に翻訳しなくてはならないし、コピーしたものにはJPと呼ばれる人からサインをもらわなくてはならないと、時間もかかるし、ストレスフルで、パートナーとも喧嘩することもあった。

 そして、最終的にすべての申請書類を先の団体の弁護士にチェックしてもらって、ようやくイミグレーションへ提出。この時、書類をチェックしてくれた弁護士、普段はボランティアということで、まだ若い駆け出しの弁護士が多いのだが、ラッキーなことに、年輩の経験を積んだ弁護士だったので、質問なども自信を持って答えてくれて、心強かった。

 イミグレーションへの申請は、書類のチェックだけで簡単に終わり、しばらくしてから担当者から連絡があり、インタビューを受けることになった。ここでも移民の国オーストラリアだけあって、通訳の手配が可能ということで、英語に自信のない自分は、お願いすることにした。もちろん、この手配に関してお金を請求されることはない。

 インタビュー当日は、先にパートナーだけが20分ほどインタビューし、そして自分がインタビュー、最後に二人でインタビューを受けた。インタビュー前はかなりナーバスになっていたが、これもラッキーなことに、担当者がアジア系のゲイの人だったので、気分的にかなりリラックスしてインタビューを受けることができた。パートナーと知り合う前にはつきあった人はいないか?など、かなりプライベートなことまで聞かれたが、正直に答えているうちに終わった。

 そしてその2日後に、イミグレーションから連絡があり、無事テンポラリーのビザが発行された。それから2年待って、2年後に再度書類を提出すると、最終的な永住権がもらえる。

 このテンポラリーのビザ、仮の永住権になるのだが、日本の国民保険にあたるメディ・ケアなども申し込めて、永住者とほぼ同じ権利がある。ただ、失業保険などは対象とならない。

 そして、申請して2年になる直前にイミグレーションから、最終のレターが届き、再度書類を提出することになる。しかし、この2年の間、二人の名前で発行されていた公共料金の支払い請求書は、いつしかパートナー1人の名前になっていたり、ほとんど気を付けていなかったせいで、この最終書類を集めるのにかなり手間取った。この2年、変わらずパートナーとして一緒に生活しているのか、この先も一緒に生活していくのかを証明するための書類で、2年前に提出した書類よりは数は少ないが、また友人から、二人が付き合っているという証明文をもらったり、写真を集めたり、これも時間がかかった。

 結局、一度書類をイミグレーションに送ったのだが、書類が足りないということで、追加でいくつかの書類を送ることになった。

 特に、財産や資産の共有ということで、2人名義で買った物の領収書や、2人名義のクレジット・カードが必要だったが、このところ買物は2人で一緒に買うというより、順番に交互に買っていたので、これを証明するのに手間がかかった。結局、年金の支払いの受け取りを、自分が死んでしまった場合、パートナーが受け取れるようにしたり、遺言状をつくったりした。

 これらの追加書類を送って、それからさらに2カ月以上待って、ようやく最終的な永住権がもらえた。ただ、この永住権も5年ごとに申請しなくてはならず、その5年間に3年以上オーストラリアで住んでいないと、次回の申請が難しくなるそうだ。永住権で2年以上オーストラリアに住んでいれば、市民権の取得が可能になるが、さすがに市民権までは考えていない。永住権とは、オーストラリアに住んでいられるビザの一種だが、市民権は、国籍がオーストラリアになるもの。つまり、日本は二重国籍を認めていないので、パスポートが日本からオーストラリアに変わること。だから、日本に帰っても、外国人扱いになる。

 ともかくこれで、いつも悩みの種だったビザのことを気にしなくてもよくなって、気分的にずいぶん楽になった。でも、一番喜んでいたのは、自分よりパートナー。申請の準備は本当に大変だったが、彼の嬉しそうな顔を見ていると、申請に関する嫌なことを忘れさせてくれた。

 かなり長くなったが、これが自分のオーストラリア永住権を受け取るまでの話。でも、これは同性間の結婚を認めているものではない。あくまでもビザ上の話であるが、それでも他の国と比べれば、ずいぶん同性愛者にとっては寛大なものだろう。

 最後に、昨年からこちらシドニーでの生活を綴ったブログをスタートさせました。シドニーでのゲイ情報から、旅行情報などもあります。よければこちらもご覧になってください。

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