週刊ディアス(DIAS)
9月17日号(3日発売)

「実はボクってゲイ」告白が
オフィスで急増している

 
 
きっかけは、それぞれ違った理由なのかもしれない。
だが確実に、オフィスでも同性愛者であることを
カミングアウトする人たちは増えている。
彼らはなぜ告白したのか。そして周囲はどう対応したのか。
いま起こりつつある「オフィスの現実」を肉声レポートした---
 

 記事は、A〜Eの5人のビジネスマンのインタビューから始まっている。
 大手総合商社の食品部門に勤めるAさん(32)は、入社2年目の後輩に、居酒屋でカミングアウトを受け、「やっぱり自分を偽り続けるのは苦痛です。この会社が非常に保守的であることはよくわかっています。僕自身も辞めたくありません。どうしたらいいのでしょうか……」と相談され、返答に窮した。結局、いまだに答えられずにいる。
 ここで企業の一般的状況が次のように説明される。「長いこと、日本の企業内ではゲイは『存在しないもの』、あるいは『存在してはならないもの』だった。ゲイの社員は、ひたすら自分の性的志向(注)を隠し、その結果、時には『偽装結婚』を余儀なくされることすらあったのだ。しかし旧来の職場文化のその固い岩にも、少しずつ浸触の穴が開きはじめている。若いゲイの社員たちは、社内でのカミングアウトを恐れなくなってきている。こっそりと職場の女子社員に打ち明けたり、気のおけない同僚、先輩に打ち明ける例が確実に増えている。なかには社内で公然と宣言するビジネスマンも出てきているのだ」。そして、Aさんのケースは他人事ではないとしている。
 つづく、中堅の資材メーカーに勤めるBさん(33)は、同僚や先輩に、キャバクラやピンサロに連れていかれるのが苦痛で、「そんな苦痛を一生ガマンするくらいなら」と、2年前、飲み会の席で泣きながらカミングアウトした。静まり返った場にいたたまれなくて、ひとりで店を出てそのまま家に帰った翌日、職場の仲間は何事もなかったような顔をしており、「いままで本当に悪かったな。でもあのことは昨日のメンバーだけの話にしとけよ」といってくる同僚もおり、その後も変わらずに付き合ってくれているという。
 大手広告代理店のデザイナーをしているCさん(37)は、入社してすぐにカミングアウトした。服装も自由で、カミングアウトしなくても、社員の誰もが知っているような雰囲気の会社なのだという。一方、全国紙の大手新聞社で働くDさん(女性)は、40過ぎの上司が、地方の支局に異動する際に、女性社員だけに小声でカミングアウトしたという。みんな、それまでの噂から、「やっぱり」という気持ちだったが、思いつめた上司の表情に、「演技」で驚いて見せたという。
 職場環境による差は大きく、大手出版社に勤務するEさん(36)は、ゲイであることは「公然の秘密」(職場のほとんど全員が知っている)になっている。この会社に入った経緯からして、付き合っていた米国人男性の引きで、同居していた彼と別れてからも日本人男性と恋愛し、現在は都内マンションである年上の男性と同居中であることから、職場に少しずつゲイであることが知れ渡っていった。「みんな興味がないんじゃないですか」と語る、元バレーボール選手でハンサムなEさんは、「事情」を知らない女性からよくモテる。しかし、それとないアプローチには気づかないので、ことはこじれない。「ゲイであることに格別悩んだことはない」「特別にカミングアウトする必要もない」Eさんは、「悩んでいる人は悩んでいると思います。実際はいっぱいいますね、会社では言えない人とか。私のようなタイプは数が少ないのは確かでしょう。自営業とか、フリーの仕事の人ならともかく、会社勤めではね」と語る。
 記事は、付け加えて、「会社内で孤立感を覚え、悶々としている同性愛者は少なくない。自分がゲイだと社内で噂されているのではないかとノイローゼになって、休職し、ついには引きこもりになってしまう人もいる。銀行などのお堅い金融機関だと、いまでもカミングアウトはビジネスマンとして自殺行為になりかねない」とまとめ、以下の文章へ移る。

 「会社勤めの同性愛者にとって、もっとも苦しいのは、上司から執拗にお見合いをすすめられること。『独身主義者だから』と言ってかわせればいいのですが、金融機関のなどの業種の方々はそうもいかない。結婚が社会的信用と結びつけられ、出世できない状況に追いこまれるからです」
 そう話すのは、「すこたん企画」を主宰する伊藤悟さん(47)だ。
 すこたん企画は、同性愛について正しい知識を広めようと、伊藤さんと簗瀬竜太さん(39)が、94年9月1日に設立。97年4月に開設したホームページのアクセス数は、8月29日現在で62万件を超えており、1日に約600アクセスのペースで増え続けている。ゲイからの身の上相談にも乗っている。
 すこたん企画に相談を持ち込んできた銀行員のFさん(32)のケースはこうだ。
 Fさんは上司からの執拗な見合いのすすめに負けて、見合いをし、相手の女性と婚約までしてしまう。
 もちろんFさんは激しい葛藤に苦しんだ。自分がゲイであることを隠し通したまま、結婚生活が続けられるわけのないことはFさんも知っている。
 思い悩んだ末、Fさんは相手の女性にカミングアウトした。幸い、女性はFさんの事情を理解してくれて、婚約は破棄された。
 しかし、行内では婚約破棄の理由があれこれと噂された。上司のメンツも丸つぶれになった。結局、Fさんは資格を取得して銀行を辞めざるを得なかった。
 食品メーカーに勤めるGさん(38)も、カミングアウトに失敗して会社を辞めたひとりだ。
 Gさんが一念発起して職場でカミングアウトしたのは、5年前の96年のこと。まず、親にゲイであることを告白した。
 「実は親へのカミングアウトほどきついことはありません。職場の場合は、いざとなれば自分が職場を離れれば解決する。でも、親子の縁は切れませんから」
 と前出の伊藤さんは言う。
 Gさんも親には泣かれた。
 「でも、うちは姉2人で、幼いころから女物の服を着させられて、遊びもおままごとなんかが自然に多くなった経緯があった、最後は親も許してくれました」
 が、職場の方はうまくいかなかった。
 「最初はみんな口ではいいことばかりを言ってくれたんですよ。ずっとお前との友情は変わらないとかなんとか……。でも、全部ウソでしたね。気がついたら、職場で孤立していて、無視されたり、社内でヒソヒソ話をされたり。『あの人、ホモなんですってね』とか、ひどいヤツには、『あいつ、HIVの検査を拒否したらしいよ』なんてありもしないことを言われたこともある。もうここにはいられないって思いました」
 結局、カミングアウトの1ヶ月後には、退職した。
 前出、すこたん企画の伊藤さんはこう指摘する。
 「ゲイにとって、カミングアウトは危険な賭けになり得る。周囲とよりよい関係を築こうとするなら、カミングアウトする側にも心構えが必要です。まず、打ち明ける相手を慎重に選ぶこと。男は、働き、結婚して家庭を築くべきだという観念に強くとらわれている人、自分の考えを曲げようとしないタイプの人は避けた方がいい。年齢の若い人のほうが、同性愛に対しての寛容さがあります。また、女性に相談するのもひとつの手です。働いている女性のほうが、社会的通念に縛られていないことが多いですから。いずれにしても(職場で)理解者をひとりでも増やすこと」
 反対に、同僚からゲイを告白された場合、どう対応すべきか。伊藤氏は、こうアドバイスする。
 「けっして偽善的な態度をとらないことです。理解されたと思った後に裏切られることほどツライことはありません。私の経験ですが、カミングアウト後、理解してくれたと思っていた相手に『やっぱり、自分の息子がホモだったらイヤだろうな』と傷つけられたことがあります。そのときはショックでした。ケンカや議論になったほうがむしろ、仲よくなることが多いのです。議論を重ねることでお互い理解が深まりますから。偽善的に振る舞われると、主張すべき機会を失い、結局、お互いの仲を深められず、気がついたら避けられていたというケースが多いんです。いちばんイヤな態度は、同性愛についてわかったフリをされることなのです」

 この後、記事は、まもなく新作『ハッシュ』が公開される橋口亮輔監督(39・ゲイであることをカミングアウトしている)のインタビューへ移る。「自分のセクシュアリティを無視して作品をつくることはできなかった」ゆえにカミングアウトしたという橋口監督も、カミングアウト直後には、手が触れただけで「触るんじゃねーよ!」と罵られたり、「ホモの監督につくのはイヤだ」と何人ものプロデューサーや役者から仕事を断わられたりしたという。それでも、橋口監督は、「日本という国では、ゲイは」「アピールが足りない」「ゲイであることを隠して生きて」いって「わさわざカミングアウトして面倒を起こすこ必要もない」と考えている人が多いのは甘えで、「自分らしく生きるために、ゲイは声を大にして、理解者を増やしていくべきだと思います」そしてカミングアウトによって「自らの敵がハッキリする。敵が見えれば、戦うことは可能です。生きる道がおのずと見えてくるはずです」と語っている。
 記事は最後に、「カミングアウトする人たちの理由は千差万別だ。だが、実際にゲイであることを明かした人の数より、悩みつつもカミングアウトできないでいるゲイの数のほうが、まだ比べものにならないほど多いのは確かだ。さて、職場で机を並べている同僚がカミングアウトしたとき、あなたはどう対応しますか?」と結んでいる。
 
取材/柳田 和洋・今泉 恵孝
撮影/都築 雅人

(伊藤注=私を取材した今泉さんはとても誠意ある対応で好感が持てた。しかし、何度も注意し、ゲラでも直しが入っていた、「性的指向」は、最後の校閲で直されてしまったのか、「性的志向」になっていて、困ったもんじゃのう。「告白」の多用も気になった。「カミングアウト=自分が同性愛者であることを相手に話して新しく関係を創り直していくこと」という定義が入っていないのも不親切か。私の「企業自体が、多様な人間を受け入れ活かせる職場をつくるべきだし、そういうことを実行する企業も存在し効果を上げている」というコメントがカットされたのも残念だった)