2002年5月5日付 西日本新聞

家族・個と個でつながりたい
〜惰性の関係性なんてありえない〜

すこたん企画 伊藤悟さん

 
 

 同性を好きになったり、性的な関心が向かったりする人たちがいる。少数派ではある。しかし、異常ではないし、倒錯や趣味でもない。にもかかわらず、同性愛者の身には、からかいやさげすみ、冷笑がまとわりつきがちだ。「デートで手をつなぐだけで好奇の視線が突き刺さってくる」とは、なんとも息苦しい世の中ではないか。

(東京報道部・岩田 直仁)

 
 

 千葉県船橋市の住宅街に立つ一軒家が、同性愛に関する情報発信センターとして知られる「すこたん企画」の事務所。伊藤悟さん=写真右=がパートナーの簗瀬竜太さん=同左=とこの仕事を始めたのは8年前だが、2人の出会いは1986年にさかのぼる。以来、1年間の同居期間を除けば、別居というライフスタイルでパートナーシップを築いてきた。
 「これが、ほどよい距離。ずっと一緒にいなくても、一番信頼できる--というつながりがあれば大丈夫」。おだやかな口調で話を続ける。「もっとも私の場合、この関係に馴染むのに十年以上かかった。昔は一体化願望がすごく強くて。好きになった人とはいつも一緒、同じ考えで歩んでいくのが理想だと思ってましたから」

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 同性愛者を取り巻く環境の厳しさは、性を含めた情報があふれる今も本質的に変わらない。
 異性愛も同性愛も「性的指向」の一タイプに過ぎないことは学校の性教育では教えてくれない。テレビのバラエティー番組などでは、性的マイノリティを笑いのネタにする風潮が今も根強い。
 「同性愛に対する否定的な見方が強い社会だから、自分を受け入れられず、自信や肯定感が持てなかった」。少数派ゆえに、同じ性的指向の人と出会う機会は少ない。「その分、恋愛への夢のような幻想が膨らむばかり。ようやく出会った簗瀬には、自分を受け入れて一体化してくれることを求めてしまった」

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一方の簗瀬さんは「離れてもつながって、個人としてやっていくためにきずなを作るものじゃないか」という考え。2人の意識には大きなズレがあった。同居、別居、別れる寸前で踏みとどまったけんかの数々を経て、次第に現在の関係に落ち着いていった。「簗瀬に引っ張られてここまで来た」と笑いながら「今でも何かさびしかったり、物足りなかったりする部分があるのは事実ですね」。それでも「この関係が気持ちいい」と言えるようになった。

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 欧米と異なり、日本では異性の夫婦に認められている財産相続などの権利、税制面などの優遇措置が同性カップルには認められていない。こうした権利面での不公平是正を求めながらも、婚姻については「あくまで個人的意見ですが、現行の戸籍制度には組み込まれたくはない。個人と個人が契約を交わし、財産の処遇などを決める方法がいい」と語る。
 「同性カップルはある意味、『結婚』という制度から自由でもあるんです。別れるにも、離婚届も慰謝料もいらない。お互いの思いを伝え合うことを丁寧かつ頻繁に行って、関係を維持する努力を続けないと、すぐ壊れちゃう」
 「惰性の関係なんてありえませんよ」と2人は口をそろえる。我が身を振り返ってハッとする異性愛の夫婦、結構いたりしませんか?