マーガレット・ミードとルース・ベネディクト
MARGARET MEAD and RUTH BENEDICT
ヒラリー・ラプスリー(Hilary Lapsley)=著 伊藤悟=訳 明石書店=刊
定価4800円+税 ISBN4-7503-1608-3
■季刊民族学102号に書評が掲載されました。(02/11/26
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・恋愛感情で紡がれたパートナーシップの軌跡
アメリカ人類学の父フランツ・ボアズに師事し、『文化の型』で文化様式論を唱え、日本論『菊と刀』で知られるルース・ベネディクト。同じくボアズに学び、果敢なフィールドワークの成果をもとに、「文化とパーソナリティ」学派の基盤を創ったマーガレット・ミード。
はじめてふたりが出会ったのは、1922年のことである。ベネディクトがバーナード大学ボアズ研究室の助手、ミードが15歳年下の学生としてであった。たがいに惹かれ合ったふたりは、まもなく協同研究をはじめる。共著こそないが、恋愛感情をともなう親密な交友は、ベネディクトが没する1948年まで続いた。
本書は、こうした四半世紀にわたるふたりの恋愛関係と協同研究を、手紙、日記、その他の資料から描きだした評伝である。
ふたりの性格は対照的だ。ベネディクトは、夢想家で内省的で、自分が「逸脱社」であることを自覚しながら、感情を心の内奥へ押し込もうとする。いっぽう、ミードは、社交的で楽観的で、常に変化を求めて奔放に行動する。サモア、ニューギニア、パリと、フィールドワークも活発だ。が、ミードもベネディクト同様、自身の同性愛指向を気に病み、不安定な精神と絶えず格闘していたのである。
同じ苦悩と感情を共有する最良のパートナーシップが、セクシュアリティや女性性の問題に直面しながら、学問世界の閉鎖性、男性研究者からの中傷など、さまざまな社会的制約を乗り越え、人類学にたしかな足跡を残していく過程は、示唆に富んだドラマとなっている。
登場人物も多彩だ。E.サピア、マリノフスキー、ラドクリフ=ブラウンなど同時代の人類学者のほか、心理学者E.エリクソンや「原爆の父」オッペンハイマーなどとの交友も興味深い。
同じ同性愛指向を持つものとして、著者ヒラリー・ラプスリーと翻訳者の伊藤悟の、ミードとベネディクトの生きざまに向けるまなざしは、真摯で温かく、訳文も心地よい。(大)
■11月3日付朝日新聞の読書欄に書評が掲載されました。(02/11/04
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11月3日付朝日新聞読書欄のトップに、『マーガレット・ミードとルース・ベネディクト』の書評が取り上げられました。評者はノンフィクションライターの与那原恵さんで、まずこの本を「ふたりの刺激的な関係性に焦点をあて、それぞれの創造的な研究を追ったものだ」と紹介してくれています。そして、ふたりの恋愛について述べ、「ふたりは、葛藤しつつも互いの個性の違いを認め、相手を独占しようとはせず、その姿勢は研究にも貫かれている」とまとめています。後半は、文化人類学へのふたりの貢献を解説し、植民地主義や人種差別を鋭く批判して、異文化間の理解を深めることと文化の「差異」そのものを受け入れることが、彼女たちの研究の核心だったと指摘します。さらに、ふたりの恋愛関係を通して、文化的に「逸脱」とされたものを尊重し、人間の寛容さを説く視点が生まれた、と明快に述べられています。最後に「『差異』をまっすぐに見つめ、個人と文化の多様性と広がりを愛した」ふたりの女性の苦悩に満ちた恋愛が、「今日の文化人類学の土台となって花開いた」と結んでいます。
■10月6日付朝日新聞の記事の中で紹介されました。(02/10/08
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読書欄の記者が書くコラム「知りたい読みたい」で「変革の時代に新しい評伝」と題して、今だから発掘できた新資料をもとに、20世紀につくられたイメージを変える「評伝」の出版が相次いでいることが紹介されています。その中で『マーガレット・ミードとルース・ベネディクト』に関しては、「文化人類学を進歩させたふたりが同性愛関係にあったというあまり知られていない事実に光をあて、それが互いの学問にどのような影響を与えたかという視点から書かれている」と説明し、「20世紀後半のフェミニズム運動があったからこそ、当人たちが言葉にできなかった関係が明らかになった」というこの本の編集者・黒田貴史さんの言葉を紹介しながら、「恋愛という極めて濃密な人間関係が、新しい知の世界へ与えた作用が興味深い」と結んでいます。
■8月11日付産経新聞に書評が掲載されました(02/08/18
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卓抜な日本研究『菊と刀』で知られるアメリカの女性文化人類学者ルース・ベネディクト。アメリカ文化人類学会長などを務め、「女性解放運動の祖母のような存在」ともいわれたマーガレット・ミード。ともに二十世紀前半を代表する文化人類学者だ。
二人が最初に出会ったのは1922年のこと。ニューヨークのバーナード大学でルースが教師、マーガレットが15歳年下の学生としてであった。「あらゆる文化に優劣はない」とする、今でいう文化相対主義的な文化人類学の立場「文化とパーソナリティ学派」を、以後互いに学問的影響を与え合いながら築いていく。
本書はそうした二人の「女性同士の恋愛」を、手紙その他の資料を用いながら描いていく。
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