ネパールの『同性愛者の浄化』に非難が集まる by 石田 |
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国際的な人権機関「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は1月12日、地元のLGBT活動家らと共に、ネパール政府に対し、地元警察による同性愛者を排除する動きや残虐行為を非難する書簡を送った。 ネパール内務省に宛てられた厳しい表現の書簡の中で、HRWは同国政府に「警察による職権乱用・虐待疑惑が十分に調査されるよう介入すること」を要求した。 「カトマンズでの、メティス[*1]や同性と性行為を行った男性、あるいは性に関する人権活動家らに対して、理不尽な逮捕や警察による暴力が続くこの傾向に、ヒューマン・ライツ・ウォッチは重大な懸念を有している」とHRW・LGBTプログラムのスコット・ロング代表は述べた。 *1 メティス(metis):男性として産まれたが自身を女性と認識する、トランスジェンダーとも呼ばれる人のネパールでの呼称。
最近では1月3日に起こった事件が報告されている。目撃者の証言によると、4人の警官がカトマンズの路上にいた3人のメティスを見つけ、「メティスだ。奴らを殺せ」と大声で叫んだという。 その内の一人の女性は警棒を使って殴られた。そして、警官に取り出した銃を突きつけられて「こういうヒジュラ[*2]が世の中を汚染しているのだから、一掃しなければいけない」と脅されたという。また、居合わせた他の2人も同様に激しく暴行を受けた。 *2 ヒジュラ(hijra):中東や南アジアなどの広い地域で使われている、トランスジェンダーや性同一性障害の人などを指し示す言葉。
2005年12月に起こった別な事件では、ネパールの首都で兵士たちがメティスやレズビアンの人々を脅したことが問題になった。被害者の女性たちは全員、ネパールのLGBT人権団体「ブルー・ダイヤモンド・ソサエティ」により組織された援助グループのメンバーだった。 その女性たちは、同国の総理大臣をはじめとする政府首脳陣が住む地域から程なくの、首都の繁華街で小さな食料品店を営んでいる。 その中の多くの女性は、レズビアンだと家族に知れてからすぐに勘当されている。また、彼らの性的指向のために雇用者から拒絶されることも多い。女性の一人は、その小さな店が彼らにとって生活を支える最後の手段だという。 女性たちは、王室ネパール軍の兵士と名乗る男たちによって嫌がらせや脅迫が日常的に行われていると話す。彼らは自らを「バルワタ駐留の王室ネパール軍兵士」と名乗っている。 その他にも、2005年12月31日に起こった、トランスセクシュアルの女性が警官に侮辱されながら竹製の警棒で暴行を受けるという事件や、28日に起こった、警官がトランスジェンダーの女性を不当に留置し無理やり服を脱がせた上、女性をからかいながら性器を調べるという事件をはじめ、ネパールでは同様の事件が頻発している。
2004年には、同性愛者の平等権を求めるために平和的に行われていたデモにカトマンズの警察が飛び入り、抗議者たちに暴行を加え、群衆を追い払おうとした。 シンガ・ダーバーにあるネパール国会前で行われたこのデモは、ブルー・ダイヤモンド・ソサエティによって計画されたもので、抗議者たちは同性愛行為を禁止する法律を撤廃し、市民権を与えるよう総理大臣宛に嘆願書を提出しようと集まっていたところだった。 また2005年4月にも、トランスジェンダーの人々の集団を警官が襲うという事件がカトマンズで起こっている。
HRWは一連の疑惑をすべて書簡として詳細に報告し、ネパール政府に対し早急な対策を要請した。 この書簡の中でHRWは、投獄されている全ての同性愛者やトランスジェンダーの人たちを解放し、職権乱用の件での責任者を処分し、そして警察官とその他の刑事裁判関係者がLGBTの人々を含むいかなる市民の人権に対しても敬意を持つよう教育することを、ネパール政府に対し所望した。 ネパール政府はこの件についてのコメントを拒んでいる。
翻訳&記事の解説:石田 京介
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