チームS:シェイダさん救援グループ 2002/02/16 up
シェイダさん本人尋問、5月8日(水)に!
〜在留権裁判第九回口頭弁論:イラン人人権活動家の招請は保留に〜

 シェイダさん在留権裁判の第九回口頭弁論が開かれた2月8日。よく晴れた、2月にしては大変暖かな日でした。
 この日の焦点になっていたのは、(1)シェイダさんの尋問はいつになるか。また、時間はどのくらいとるか。(2)シェイダさん側が招請していたイラン人人権活動家、グダーズ・エグテダーリ氏が証人として採用されるか。(3)法務省側から、新たな主張はなされるか。の3点でした。
 シェイダさんの尋問は十分に時間をかけて行うこと、裁判の焦点が「イランで同性愛者が迫害されているかどうか」にある以上、その事実を知るエグテダーリ氏の尋問は必要不可欠であること……この二つは、シェイダさん側にとって譲れない一線です。シェイダさん側は、この日に向けて新たに「証拠申出書補充書」を提出し、この二点について裁判所に強くアピールしました。
 さて、この法廷で、国際的には大きな争点となっている一つの問題が、予想外にすんなりと決着しました。

 
●○●法務省、同性愛者を「特定の社会的集団」と認める●○●

 難民条約における難民の要件とは、「人種、民族、宗教、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見」により「十分に理由のある迫害の恐れ」を有する人、ということです。欧米で同性愛者の難民認定が争われたケースでは、同性愛者が「特定の社会的集団」にあたるかがつねに最大の論点になってきました。
 この点について、シェイダさん側は欧米の判例などを証拠提出し、同性愛者は明らかに「特定の社会的集団」にあたると主張してきました。裁判所は昨年12月の第7回口頭弁論で法務省側にこの点で反論があるならまとめろと指示しており、法務省の対応が注目されていました。
 さて、この日の法廷で裁判所からこの点について問われた法務省側の担当者は「積極的に争うつもりはありません」と述べ、この論点はあっさりと決着しました。同性愛者が「特定の社会的集団」であることを日本の法務省が認めたということであり、国際的には大きなインパクトを与えそうです。

 
●○●シェイダさんの尋問は90分、エグテダーリ氏採用は「留保」に●○●

 一方、裁判所は、シェイダさんの尋問に関して、シェイダさん側が求めた「4時間」という要求に対して、尋問時間を90分に制限するという不当な判断をしてきました。シェイダさんは通訳つきで尋問を行うため、実質的な時間は45分程度しかありません。裁判所は、その代わり、陳述書を作成するのに十分な時間を提供する、として、陳述書提出期限を4月8日と定め、さらにシェイダさんの尋問日を3ヶ月後の5月8日に指定しました。一方、法務省側は反対尋問の時間について、通訳含め60分が必要であると主張、受け入れられました。
 十分な準備期間が与えられ、充実した陳述書を作ることは、これで可能になります。しかし、シェイダさんは、イランに居住した同性愛者として、その経験を私たちや裁判所に伝えることができる唯一の人であり、尋問は、原告であるシェイダさんのおかれた立場や主張について、シェイダさん自身が肉声で裁判官に伝えることのできる極めて貴重な機会です。書面をもってこれに代えることは、極めて難しいのです。
 裁判所は、わずか90分の尋問時間しか与えなかったことによって、この事件について的確な判断を行う上で、自ら大きな損失を科すことになったと言えるでしょう。
 一方、シェイダさん側が申請していたイラン人人権活動家グダーズ・エグテダーリ氏の証人採用について裁判所は、今法廷では決定を「留保」することを表明。おそらく、裁判官の間でまだ意見が一致していないのだろうと思われます。いずれにせよ「留保」決定により、こちらの方は次回の法廷に向けて希望をつなぐことになりました。

 
●○●次回法廷は5月8日、尋問準備に精魂傾けます●○●

 この法廷で、次回法廷が5月8日午後2時から4時30分まで、内容はシェイダさんの尋問、ということになりました。
 次回法廷まであと3ヶ月。シェイダさんの陳述書作りと尋問に向けて、シェイダさん弁護団の全精力をそそぎ込みたいと思います。
 次回の法廷は、シェイダさん在留権裁判の最大の「山場」です。内容も、これまでの裁判と違ってとても面白いものになると思います。皆様、万障お繰り合わせの上、ぜひとも傍聴にきていただくよう、よろしくお願いいたします。

■□■シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論■□■
<<シェイダさん証人尋問>>
 ○日時:2002年5月8日 午後2時〜4時30分
 ○場所:東京地方裁判所第606号法廷
 (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分 東京地方裁判所6階)
■□■第十回口頭弁論 報告集会■□■
<<原告証人尋問を終えて>>

 ○日時:2002年5月8日 午後5時〜7時
 ○場所:弁護士会館5F会議室(東京地裁裏)を予定

 
法務省、同性愛者を「特定の社会的集団」と認める
  〜難民条約解釈上、きわめて重要な論点があっさり決着〜

 (1)の記事でも述べましたが、法務省は今回の法廷で、同性愛者が難民条約上「特定の社会的集団」を構成する、というシェイダさんの主張に対し「積極的に争わない」と述べ、事実上、同性愛者が「特定の社会的集団」であることを認めました。
 同性愛者は「特定の社会的集団」か。これは、シェイダさん在留権裁判ではあまり主要な論点にはなってきませんでしたが、同性愛者の難民認定をめぐって欧米諸国で争われた多くのケースにおいて、この問題は極めて重要な争点になっていました。法務省がこの時点で、この点について「争わない」としたことは、国際的には大きなインパクトのあることだと言えます。

 
●○●欧米諸国と日本の難民条約解釈の違い●○●

 欧米諸国では、なぜこの点が主要な論点となってきたのでしょうか。また、日本の法務省は、なぜこの点についてあっさりとシェイダさん側の主張を認めたのでしょうか。その最大の要因は、おそらく難民条約の解釈の違いにあります。
 難民の定義は大きく分けて二つの要素からなっています。(1)人種、民族、宗教、政治的意見、特定の社会的集団の構成員であることにより、(2)「十分に理由のある迫害の恐れ」を抱いていること、です。
 欧米では、(2)の「十分に理由のある迫害の恐れ」という文言を字義通りに解釈し、ある人が迫害の恐れを有しており、それに客観的な根拠があれば「たとえ迫害にさらされる確率が10%以下だとしても」(引用:米国の判例)難民として認めるという解釈が普通です。ですから、ある人を難民と認めるかどうかの焦点は(1)に置かれます。(1)の中で具体的な定義として示されていないのは「特定の社会的集団」ですから、難民認定に関する論争は、何らかの集団が「特定の社会的集団」にあたるかどうかを中心に検討されることなります。欧米には、「何が『特定の社会的集団』にあたるか」について、複数の学説と実務上の判断があり、活発に論争がされています。
 一方、日本の法務省は「難民申請者個別の事情を勘案する」という表現のもとに、「十分に理由のある迫害の恐れ」という文言をことさらに厳しく解釈し、事実上「誰を認定し、誰を認定しないかは行政次第」という、いわば裁量権万能の状況を作り出しています。そのため、たとえばシェイダさんの難民申請について判断するのに、わざわざ同性愛者が「特定の社会的集団」であるかないかといった論争をする必要はなく、(2)で「イランでは同性愛者は迫害されていない」と言えばそれで済むわけです。法務省があっさりと「同性愛者」=「特定の社会的集団」と認めたのには、こうした日本独特の難民条約「解釈」があるわけです。

 
●○●国際的には大きなインパクト●○●

 欧米で初めて同性愛者が「特定の社会的集団」と認められたのは、1983年にドイツのヴィースバーデン行政裁判所がイラン人ゲイに対して出した判決です(シェイダさんを救え!ニュースアップデイト第32号参照)。その後、欧米諸国の多くで、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすとの判決や行政機関の決定がなされ、現在ではUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も同性愛者を「特定の社会的集団」の一つとみなしています。「シェイダさん在留権裁判」でシェイダさん側は、海外で出されたこれらの決定や判例、論文などを翻訳し、証拠として提出してきました。「同性愛者が特定の社会的集団にあたることについて積極的に争わない」という法務省の方針は、欧米でのこれまでの蓄積を生かしたシェイダさん側の不戦勝である、ということができます。
 しかし、欧米諸国の政府には、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすべきではないという判断を堅持しているところもあり、スウェーデンなどでも、政府が裁判で「同性愛者は『特定の社会的集団』とは言えない」と主張することがあるようです。人種主義的で閉鎖的なことで知られる日本の法務省が、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすという主張に反対しないという判断を行ったということは、国際的には非常に重要であり、各国で難民認定をめざす同性愛者にとっても大きな励みとなることでしょう。