■大量の証拠を提出した法務省
皆様、こんにちは。東京では、とても爽やかな季節が到来しています。
さて、シェイダさん在留権裁判の第20回口頭弁論が、9月9日午前11時より、いつもの東京地裁第606号法廷で開かれました。前回の7月の法廷では、10月に開かれる次の法廷を結審、その前に証拠資料提出の集約日を設けよう、ということになり、9月9日の法廷は、その「集約日」として設けられていたものでした。当方は、ほぼ十全の証拠提出状況ですので、この集約日は、もっぱら法務省をターゲットとしたものでした。
法務省がどんな証拠を出してくるのか……当方は半信半疑で法廷に臨みましたが、法務省、やってくれました。これまでの3年間で30しか証拠を出していなかったのが、この日だけで、合計31の証拠資料を提出。法務省提出の証拠は一気にこれまでの二倍、シェイダさん提出の証拠の約半分となったのです。
いきなり30もの証拠を出されては、こちらも困ります。そもそも、どんな重要な証拠が含まれているか分かりません。10月の「結審」まで1ヶ月半、それだけではとうてい、証拠への反論と最終準備書面の準備はできません。
そこで急遽、シェイダさん側として、10月の法廷を通常の法廷として入れ、結審の法廷を再設定することを要求。要求は裁判官によって受け入れられ、10月23日の法廷は結審ではなく、普通の法廷となりました。また、結審については、10月23日の第21回口頭弁論で決定する、ということになりました。おそらく、12月前後と予想されます。
■証拠は「張り子の虎」?
裁判終了ののち、シェイダさん弁護団では2回の会議を持ち、法務省の証拠を吟味しました。法務省の証拠は、なかなか内容的にあなどれないものです。ほとんど意味のない証拠や、こちらに有利な証拠なども多く混じっていますが、いちばん問題となるのは以下の二つです。
○合計8点にのぼるオーストラリアのイラン人ゲイ難民申請却下の決定・判決
○国連拷問禁止委員会によるイラン人難民の強制送還停止申請却下の決定
オーストラリアでは、現保守政権誕生後、これまでの難民や外国人に寛容なポリシーを大きく後退させ、もちろん日本よりは格段に広い間口を用意しているものの「初めに収容・排除ありき」の政策へと、みずからの難民行政を大きく変化させています。法務省はこれに目を付け、オーストラリアの難民控訴審判所および連邦裁判所がイラン人ゲイの難民申請を却下した最近の事例8点を証拠提出しました。
また、オランダでも、同様のケースにより、国の司法審査が終了してしまい、最終的に国連の拷問等禁止条約に基づいて設立された拷問禁止委員会に提訴したものの却下された、というイラン人ゲイのケースがあります。法務省はこれについて、証拠提出してきました。これらについては、こちらも本気で立ち向かわなければなりません。
弁護団でこれらの証拠を精査したところ、どの事例も、自己の性的指向を公言(カミングアウト)している同性愛者の事例ではないことがわかりました。シェイダさんは自己の性的指向を公言し、また、イラン刑法のソドミー条項を撤廃することを要求する亡命イラン人レズビアン・ゲイのNGO「ホマーン・イラン同性愛者人権擁護グループ」のメンバーでもあります。本人自身、イベントやパレードなどの公的な場所でこれらのメッセージを公言しています。
法務省の提出したオーストラリアの判決の中には、「シェイダさんのような自己の性的指向を公言した同性愛者の迫害の事例は、本件とは異なった事例であるから考慮しない」と明記したものがいくつかあります。つまり、シェイダさんの事例は、これらの事例と同一に語ることはできないのだ、ということをそれらの判例は明示しています。そうした意味で、これらの決定・判決はシェイダさんの事例とは異なった事例についての決定なのだ、ということができます。
もう一つ。法務省提出の証拠資料には、信じられないような誤訳が多数含まれています。8つの決定文のうち7つにおいて、イスラーム刑法(Islamic
Penal Code)のPenal (ペナルティの「ペナル」)をPanel (パネリストの「パネル」)と勘違いし、「イスラム審査団規約」などと訳しているのです。そもそもイスラーム刑法が問題となっているシェイダさんのケースにおいて、こんな誤りは想像を絶します。そのほか、「the
authorities」を全部「権威」と訳し、「権威が家宅捜索を行うことを事前に察知し……」などという訳も存在します。こんなことでは、他にどんな誤訳があるとも知れず、翻訳には全く信用性がないとすら言うことができます。
こうした意味で、法務省の提出してきた証拠資料は、ほとんどが「張り子の虎」であるということが、徐々に分かってきました。量の膨大さにかどわかされず、じっくりと反論を練って行くつもりです。
■次の法廷は10月23日午後2時(1時30分集合)
次回法廷は、これらの法務省提出の証拠資料にこちら側が反論をまとめ、また、反証となるような証拠資料を提出するのが趣旨となります。皆様、ぜひお越し下さい!! 次回は10月23日午後2時(1時30分集合)、東京地方裁判所606号法廷となります。
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シェイダさん在留権裁判第21回口頭弁論(結審) ■□■
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○日時:2003年10月23日午後2時
(集合時間:午後1時30分)
○場所:東京地方裁判所6階606号法廷
(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) |
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第21回口頭弁論(結審)報告集会 ■□■
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○日時:2003年10月23日午後3時〜
○場所:弁護士会館5Fを予定
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