ここでは、「判決」というものが持つ法律的意味について触れ、「判決」がどんなことを引き起こすのか、簡潔にまとめてみたいと思います。
■判決における「勝ち・負け」の判定
行政訴訟の判決は、民事訴訟と同じく、あっけないほど早く終わります。刑事訴訟の場合、判決全文を法廷で朗読しなければならないことになっているため、ものによっては非常に長くかかる場合もありますが、行政訴訟は主文だけ朗読すればよいので、すぐ終わるわけです。
さて、裁判官は、判決といえども法律用語で言い渡します。「原告の勝ち!」「被告の負け!」などと言ってくれるなら非常にわかりやすいのですが、そんな風には言いません。裁判官が何と言えば勝ちで、何と言えば負けなのか、ということを頭に入れておく必要があります。
原告シェイダさん側が勝訴する場合、裁判官は次のようなことを言います。「被告法務大臣が平成12年7月3日付けで原告に対して為した出入国管理および難民認定法49条1項に基づく原告の異議申し出は理由がない旨の裁決を取り消す。被告東京入国管理局主任審査官植村幹雄が平成12年7月4日原告に対してなした退去強制令書発付処分を取り消す」
原告シェイダさん側が敗訴する場合には、裁判官は次のようなことを言います。 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
ということで、基本的には、裁判官が最初に「ひ」と言えば勝ち、「げ」と言えば負け、ということになります。この訴訟は行政訴訟ですので、中間的な表現はないと思われます。
■「判決」で何が決まるのか
○前提:行政権力に都合の良い日本の行政訴訟制度
「判決」で何が決まるのかについては、少し説明が複雑になります。
日本の司法制度は、市民として闘う側から見れば、行政にとって非常に都合良くできています。行政訴訟の相手は政府。それも、日本の政府は、クーデターとか革命ですぐ崩壊したり政権交代で体質が変わったりするような適当な政府ではありません。極端に堅固な権力と基盤を有する、世界でも稀なほど強力な政府です。訴訟の最中に政府がなくなったり、急に方針が変わるなどということはほぼありません。それに対して、訴える側は市民です。裁判以外に、仕事や家庭、自分の健康などの問題を抱えており、日本政府と比べれば、吹けば飛ぶような小さな存在です。
行政訴訟では、事実上全く力量が違うこの二つの存在を、形式的平等ということで同じ土俵に並べ、両方に三審制を保障します。さらにひどいことに、一回の裁判で行政処分が覆ると行政の円滑な運営に支障が出るからなどという理由で、行政処分に「公定力」と称する効力を認め、たとえ国側敗訴の判決が出ても、それが確定しないかぎり、その行政処分は有効なまま据え置かれることになっているのです。つまり、第1審で勝っても、法務省側が控訴してしまえば、強制送還の処分が取り消されるわけではないのです。ですから、シェイダさん側が勝った場合には、以下のようなことが起きます。
○シェイダさん側が勝って法務省が控訴した場合
ですから、原告シェイダさんが第1審で勝っても、法務省が控訴してしまえば、強制送還の処分は執行されないものの、争われている状態が続くことになり、現在の状態がそのまま続くことになります。ただ、シェイダさん側が勝訴した場合には、法務省が控訴したとしても、強制送還処分の執行は事実上できませんから、再収容などの事態は生じないことになります。
○シェイダさん側が勝って法務省が控訴しなかった場合(判決が確定)
一番いいのは、法務省側が控訴しないで、シェイダさん側の勝訴判決が確定することです。そうすれば、シェイダさんに対する強制送還の処分は取り消され、なかったことになります。法務省はもう一度在留権に関する判断をしなければなりませんが、この場合、在留権を認めない判断は違法なのでできず、必然的に、シェイダさんに在留権を認める可能性が著しく高くなります。
○シェイダさん側が負けた場合
シェイダさん側が負けた場合には、非常に厳しい状況に陥る可能性があります。
法務省が行った強制送還処分(退去強制令書の発付)が合法だ、ということになるわけですから、法務省はしかめっ面で「粛々と法を執行する」といいつつ、内心は大喜びで強制送還の執行に着手することになります。強制送還の手続きは、収容と送還の二つで成り立っています。シェイダさん側は当然、控訴をした上、強制送還の処分の執行停止を裁判所に求める手続きを行うことになりますが、裁判所は、送還の停止は認めても、収容の停止は認めないのが普通です。ですから、法務省が強制送還の執行に着手すれば、シェイダさんの強制収容所への再収容の可能性は十分にある、ということになります。実際、このような形で裁判に負けた外国人が、控訴をしていても、国連難民高等弁務官事務所の難民認定をもらっていても、強制収容所に再収容されたケースはいくつかあります。敗訴した場合、私たちはシェイダさんが再収容されないように最大限の努力をする必要があります。
○第3国出国はあり得るのか
では、第1審で敗訴した場合、第3国への出国は可能になるのでしょうか。
第3国に出国できるのは、他国がシェイダさんを難民と認め、引き取る場合ですが、まず、日本にいる外国人の難民申請を大使館で受け付けているのは、知る限りカナダとオーストラリアしかありません。また、難民保護の第一義的な責任は難民の居住する国にあります。シェイダさんの場合、それは日本であり、日本が責任を果たすことが求められるため、他国が、「日本が責任を果たしていないから、わが国がやる」といってシェイダさんを難民として引き取る、という選択をわざわざするとは思えません。最終的にシェイダさん敗訴の判決が確定すれば、日本においてシェイダさんが救済される行政的・司法的な道がいずれも完全に閉ざされたということになりますから、手をさしのべてくれる第3国も存在するかも知れませんが、第1審判決だけという場合は、第3国出国の道は非常に狭い、と言えるでしょう。先進国の多くが途上国の一般の人々(実は、専門技術を持っている途上国の人の先進国への受け入れはどんどん増えているのですが)への門戸をいずれも閉ざそうとしている中で、第3国に過剰な期待をすることはできません。
■結論:勝つことと、声をあげること
やはり、最もよい道筋は(1)勝訴判決を勝ち取ること、(2)法務省に対して「控訴するな」という広範な声を組織し、法務省に控訴を断念させること、にあります。判決はいわば「時の運」ですので、過剰に期待することはできませんが、勝った場合には、「法務省は控訴するな!!」「これ以上、シェイダさんをいじめないで!」の声をあげていくことが大変重要です。
いずれにせよ、今は判決を見守る段階です。皆様、是非ともご注目をお願いします!!
|