チームS:シェイダさん救援グループ 2004/03/01 up
 
(1)シェイダさん在留権裁判1審 不当判決に終わる
 2月25日(水)午後1時15分から、東京地方裁判所第606号法廷において、シェイダさん在留権裁判の判決が言い渡されました。
 「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」
 わずか2〜30秒で終わった法廷。4年近くにわたったシェイダさん在留権裁判第1審は、原告シェイダさん側の敗訴に終わりました。
 判決の内容は、実に低劣なものです。判決は、根拠なく、イランにおいて同性愛者が迫害の危険にあう可能性は少ない、と述べ、シェイダさんがイランに帰国しても、安全な生活が出来る、と断じます。また、シェイダさんが同性愛者としてカミングアウトしており、さらにイラン・イスラーム刑法におけるソドミー(同性愛者の処刑)規定を廃止するべきとの主張を公然と行っている、という点に関しては、これらの事実自体は認定した上で、これを原告の「性表現」とまとめ、「性表現」に関しては各国がその状況に照らして規制の基準を作って良いのであって、原告がカミングアウトしたり、イスラーム刑法におけるソドミー規定に反対することに対する抑圧は「迫害」には値しない、という判断となっています。同性愛者の人権の確立に向けた主張を矮小化し、普遍的に認められるべき政治的自由の範疇から排除するという、社会通念上もありうべからざる愚劣な、恥ずべき判決であると言えます。
 同性愛者が難民条約上の「特定の社会的集団」であるかどうか、また石打ち刑が「拷問等禁止条約」上の残虐な刑罰にあたるのか、という点については、そもそもイランは同性愛者にとって危険な国ではないから、という理由で、判断する必要なしとして退けられました。
 判決に対する詳細な分析・批判は別途作成いたしますが、この4年間、私たちが積み上げてきた様々な主張・証拠が、上記のようなあまりに低劣な議論によって覆され、シェイダさんから在留資格を剥奪する「判決」として宣告されてしまったことに、徒労感と絶望感を覚えずにはいられません。
 とりあえず、上記を速報としてお伝えいたします。詳細については追ってお知らせいたします。
 
(2)1審判決にあたってのシェイダさんおよびチームS記者会見声明
 

 判決に引き続き、裁判所内の司法記者クラブにおいて、原告シェイダさんおよび支援団体であるチームS・シェイダさん救援グループは、以下のような声明を発表しました。

○原告シェイダさん声明
人権が認められていないこの国で、私が裁判で勝訴判決を得ることが出来るとは、そもそも考えていませんでした。ですから、敗訴判決を受けたからといって、私は何ら失望していません。今後は日本ではなく、難民の人権を守る国を探したいと思いま す。

○チームS・シェイダさん救援グループ声明
シェイダさんの支援団体であるチームS・シェイダさん救援グループとして、敗訴判決に対して深い悲しみと強い怒りを表明する。
イラン・イスラーム共和国では、イスラーム法の施行を絶対視するヴェラーヤテ・ファギーフ体制(「イスラーム法学者による統治」体制)の下、同性愛者は差別され、迫害され、虐殺されてきた。同性愛者は、石打ち刑を始め、火炙りや断崖からの投擲といったあたう限り残虐な方法で殺されてきた。
いまイランでは、国会議員選挙を巡って、改革派に対して、ヴェラーヤテ・ファギーフ体制の護持を主張する保守派の巻き返しが強まっている。保守派とは、たんなる聖職者の集まりではない。革命防衛隊、民衆動員軍、アンサーレ・ヒズボッラーといった準軍事組織が、イスラーム体制を国民に力で押しつけている。同性愛者への迫害は今後、強化されることは明白である。
このようなイランの状況に照らして、同性愛者の活動家として、自己の性的指向を明らかにし、刑法の同性愛者処刑条項の撤廃を公然と主張しているシェイダさんが帰国すれば、極刑に処せられることは明らかである。シェイダさんは欧米に拠点を置くイラン人同性愛者難民の人権団体「ホーマン・イラン同性愛者人権擁護グループ」の公然たるメンバーなのである。
ところが、わが法務省は、イランでは同性愛者は処刑されていないという異端的な説を繰り返し主張し、さらには、同性愛者は難民条約に言うところの「特定の社会的集団ではない」と主張し、石打ち刑は拷問等禁止条約にいうところの拷問や残虐な刑罰にあたらないとまで主張した。このような主張は、すべて真実に基づかない愚劣なものである。
注目すべきは、「性的指向を隠してさえいれば弾圧されない」という主張である。性的指向を表明し、同性愛者の権利確立のために取り組むことは、同性愛者にとって必須の政治的権利である。法務省は、人間には誰しも備わっているこの権利を追求することを、同性愛者に対しては認めないと主張するのである。欧米では、同性愛者であること、また同性愛者の権利を主張することによって迫害を受ける十分に理由のある恐怖を有する難民を数多く受け入れている。日本でも、宗教や政治的な迫害を理由に、数名のイラン人難民が受け入れられている。性的指向による迫害については難民の理由として認めないという法務省の主張は、同性愛者に対する差別以外の何ものでもない。
法務省が、公然と同性愛者差別を行い、嘘とペテンで塗り固めてまで擁護しなければならない入管体制とは、難民を強制送還してまで守り抜かなければならない「難民鎖国」とはいったい何なのか。法務省は、こうした難民鎖国政策が、グローバル化と人口減少時代において、長期的には日本国家それ自体を衰退に追い込むことにつながっていることに、未だ気づいていない。
我々は、難民鎖国の閉ざされた門をこじ開け、シェイダさんを難民として受け入れさせるために、最後まで闘い抜く。
最後に、悲しむべき本日の判決を弾劾して、以下のイラクの現代詩人バドル・シャキール・アッ・サイヤーブの詩を捧げる。

  ああ 無言の 無言の墓地よ 汝等の悲しき小道で
  おれは吼える 叫ぶ 叫び 悲嘆の声をあげる
  沈黙のうちで おれは聞く
  闇の中に散らばる厳しい雪
  孤独の足音が鳴り響く
  あたかも鉄と石でできた獣が
  生命を啖らうように 命のかけらすらない 夜も昼も