先進国では同性間のパートナーシップの法的保護や同性婚が具体的な政治日程に上る昨今ですが、アフリカや中東・イスラーム圏、アジアの一部諸国などでは、いまだに同性愛者に対する苛烈な弾圧が続いています。
西アフリカのガーナでは昨年、ポルノ・ビデオをデンマークに郵送しようとした4人のガーナ人ゲイが逮捕され、英国植民地時代に持ち込まれた刑法ソドミー条項違反により懲役2年に処されました。また、サハラ以南アフリカの中では政府の職務執行能力が高いウガンダでは、これまた英国が植民地時代に持ち込んだ刑法ソドミー条項に基づいて同性愛者を処罰せよというムセベニ大統領の方針に従い、現在までに13人のウガンダ人ゲイが無期懲役刑に処せられています。アフリカにおけるレズビアン・ゲイに対する弾圧の諸相については、以下のサイトに各国別の情報が掲載されています。
Behind
the Mask http://www.mask.org.za/
イランでも、同性愛者に対する処刑は続いています。ハータミー政権が成立した97年以降も、同性愛者に対する死刑判決が継続して出され、実際に処刑事例もいくつも出ていることは、様々な文献によって明らかになっています。
ところが、現在の問題は、アフリカ・中東などで続くこうした同性愛者に対する弾圧に対して、国際的な市民社会による批判や抗議といった運動がほとんど展開されていないこと、これらの事態についての情報が国際的にメディアで紹介されることもなければ、人権団体によって記録され、運動が組織されることもないということです。
以前は、途上国で生じるこれらの事件は、欧米の同性愛者の人権グループによってとりあげられ、国際的に大きな波紋を呼んできました。例えば、数年前にエジプトで同性愛者が大量に逮捕された事件においては、国際的な批判により、逮捕された同性愛者のほとんどが釈放されました。ところが、現在では、途上国で生じる同性愛者への弾圧事件は、国際的にほとんど情報が流れないか、もしくは流れても抗議や救援運動が組織されず放置されるというのが普通です。こうした中で、同性愛者への弾圧があるにも関わらず、それらがないことにされてしまう、という事態が継続することになります。
近年のイラン人同性愛者の難民申請に関わる西欧・カナダ等の政府の対応には、そうした事なかれ主義、黙殺主義が多く見受けられます。実際に同性愛者に対する処刑があり、それらがイランの新聞においても報道されているにもかかわらず、それらをまともに検証することもなく平然と「イランで同性愛者が処刑された例はここ数年来存在しない」「イランでは、ソドミー罪だけで死刑になった例はない」「ソドミー罪の立証要件は重く、事実上、同性愛者を処刑することは不可能である」などと記述して事足れり、という状況なのです。実際には、欧米やニュージーランドなどでは、最終的に同性愛者の難民申請者側が裁判で勝利して難民として認められることが多いのがまだしも救いとは言えますが、例えば保守勢力の支配が続くオーストラリアでは、司法の判断も90年代前半などに比べて大きく後退しており、これでは日本と変わりないではないか、という事態が招来しつつあるとも言えます。
私たちは、途上国で生じる同性愛者への弾圧や暴力の事例を記録化し、丹念に抗議や救援を積み重ねていく、途上国における同性愛者への国際的な反弾圧・救援運動を再構築する必要に迫られています。そうしなければ、先進国に亡命を求めてきた難民たちを救援することも困難になってしまうのです。先進国の同性愛者だけでなく、途上国の同性愛者の存在を考え連帯していく想像力が問われていると思います。 |