チームS:シェイダさん救援グループ 2004/12/12 up
 
(1)第2審の判決日決まる=1月20日

 11月25日(木)の午後1時15分より、シェイダさん在留権裁判第2審の第5回口頭弁論が行われました。この弁論が、第2審の判決前最後の法廷=結審、となります。
 前回(第4回)の口頭弁論では、シェイダさん側が提出したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の法廷意見やニュージーランドでこの7月に出た判例(イラン人の難民申請者の難民資格を認めた判決)、その他数多くの証拠に対して、法務省側がいくつか反論の証拠を出してきました。今回の法廷は、それに対して、シェイダさん側が証拠を精査し、反論の必要があればする、ということを目的に開かれたものでした。シェイダさん側は、ここ数ヶ月で出たいくつかの新しい証拠をまとめ、提出しました。
 その中には、本年、イラン北東部の町マシュハドで、同性間性行為を行ったとして男性数人が死刑判決を受けたという事件も含まれています。この判決では、裁判官がわざわざ「同性愛者は断崖から投擲する、もしくは斬首といった方法で処刑することが必要だが、昨今の情勢に鑑み、絞首刑とする」と宣ったとのこと。法務省や一部諸外国の判例の如何に関わらず、イランでは同性愛者に対する残虐な刑罰は連綿と続いているのです。
 1審敗北のショックから始まったシェイダさん裁判の第2審。しかし、シェイダさんもショックや失望感を乗り切って頑張り、UNHCRなどの絶大な協力も得て、第2審では、第1審で提出した様々な証拠や主張を、より具体的かつ権威を持った形で構築し直すことができました。「勝つための」取り組みが予想以上に実現できた、と考えています。
 あとは裁判官に結論をゆだねるのみ……なのですが、東京高等裁判所は今のところ、あらゆる難民裁判にとって鬼門となっています。私たちも、過剰な期待は抱かず、どんな判決が下りても対処できるように対応策を整えていきたいと考えています。
 次回は判決。判決期日は1月20日(木)午後3時から。皆さま、ぜひともご注目をお願いいたします。

■◇シェイダさん在留権裁判第2審 判決言渡◇■

 (日時)2005年1月20日(木)午後3時開廷(集合:2時30分)
 (場所)東京高等裁判所(地裁と同じ建物)第809号法廷
    ・東京地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分(A1出口下車)
 (報告集会)
    ・日時:上記日時法廷終了後
    ・場所:弁護士会館を予定

 
 
(2)判決後の「収容」に注意!シェイダさんを応援しよう
 

 イランでは、ホメイニー体制確立以降の「国体」である「ヴェラーヤテ・ファギーフ」(イスラーム法学者による統治)体制の護持をはかる保守派と、同体制の改革をはかる改革派との争闘戦が継続してきました。しかし、前回の国会議員選挙では、保守派の牙城である司法府が改革派の出馬を禁止したり圧力をかける中で保守派が圧勝し、事実上、政治的には保守派の力が大きく伸張する傾向にあります。
 その中で、同性愛者に対する処刑の情報もふたたび頻発するようになってきています。
 スウェーデン人権委員会が本年に発表した、2003年のイランの人権に関する報告書では、2003年5月にイラン北東部の宗教都市マシュハドで、数人が「ソドミー」の有罪を宣告されて絞首刑に処され、また、ちょうど今月にも、イラン国内の新聞が、同じマシュハドで男性2名が「ソドミー」の有罪で死刑を宣告されています。
 このように、ソドミー罪による処刑は近年、再び頻発する傾向にあります。また、ソドミー罪での有罪や処刑ケースについては、海外に伝わらないケースも数多くあるものと思われます。こうした事例から考えれば、シェイダさんがイランに帰国しても迫害されないだろうというのは極めて甘い見通しにすぎません。
 シェイダさん側は、上記のような資料を証拠化して、第4回口頭弁論に提出したいと考えています。裁判官たちには、こうした資料を踏まえて、適切な判決を出して欲しいものです。

 
(3)世界で続く同性愛者への弾圧:国際的な同性愛者の人権運動の再構築が必要
 

 先進国では同性間のパートナーシップの法的保護や同性婚が具体的な政治日程に上る昨今ですが、アフリカや中東・イスラーム圏、アジアの一部諸国などでは、いまだに同性愛者に対する苛烈な弾圧が続いています。
 西アフリカのガーナでは昨年、ポルノ・ビデオをデンマークに郵送しようとした4人のガーナ人ゲイが逮捕され、英国植民地時代に持ち込まれた刑法ソドミー条項違反により懲役2年に処されました。また、サハラ以南アフリカの中では政府の職務執行能力が高いウガンダでは、これまた英国が植民地時代に持ち込んだ刑法ソドミー条項に基づいて同性愛者を処罰せよというムセベニ大統領の方針に従い、現在までに13人のウガンダ人ゲイが無期懲役刑に処せられています。アフリカにおけるレズビアン・ゲイに対する弾圧の諸相については、以下のサイトに各国別の情報が掲載されています。

Behind the Mask  http://www.mask.org.za/
 
 イランでも、同性愛者に対する処刑は続いています。ハータミー政権が成立した97年以降も、同性愛者に対する死刑判決が継続して出され、実際に処刑事例もいくつも出ていることは、様々な文献によって明らかになっています。
 ところが、現在の問題は、アフリカ・中東などで続くこうした同性愛者に対する弾圧に対して、国際的な市民社会による批判や抗議といった運動がほとんど展開されていないこと、これらの事態についての情報が国際的にメディアで紹介されることもなければ、人権団体によって記録され、運動が組織されることもないということです。
 以前は、途上国で生じるこれらの事件は、欧米の同性愛者の人権グループによってとりあげられ、国際的に大きな波紋を呼んできました。例えば、数年前にエジプトで同性愛者が大量に逮捕された事件においては、国際的な批判により、逮捕された同性愛者のほとんどが釈放されました。ところが、現在では、途上国で生じる同性愛者への弾圧事件は、国際的にほとんど情報が流れないか、もしくは流れても抗議や救援運動が組織されず放置されるというのが普通です。こうした中で、同性愛者への弾圧があるにも関わらず、それらがないことにされてしまう、という事態が継続することになります。
 近年のイラン人同性愛者の難民申請に関わる西欧・カナダ等の政府の対応には、そうした事なかれ主義、黙殺主義が多く見受けられます。実際に同性愛者に対する処刑があり、それらがイランの新聞においても報道されているにもかかわらず、それらをまともに検証することもなく平然と「イランで同性愛者が処刑された例はここ数年来存在しない」「イランでは、ソドミー罪だけで死刑になった例はない」「ソドミー罪の立証要件は重く、事実上、同性愛者を処刑することは不可能である」などと記述して事足れり、という状況なのです。実際には、欧米やニュージーランドなどでは、最終的に同性愛者の難民申請者側が裁判で勝利して難民として認められることが多いのがまだしも救いとは言えますが、例えば保守勢力の支配が続くオーストラリアでは、司法の判断も90年代前半などに比べて大きく後退しており、これでは日本と変わりないではないか、という事態が招来しつつあるとも言えます。
 私たちは、途上国で生じる同性愛者への弾圧や暴力の事例を記録化し、丹念に抗議や救援を積み重ねていく、途上国における同性愛者への国際的な反弾圧・救援運動を再構築する必要に迫られています。そうしなければ、先進国に亡命を求めてきた難民たちを救援することも困難になってしまうのです。先進国の同性愛者だけでなく、途上国の同性愛者の存在を考え連帯していく想像力が問われていると思います。