Q11■日本では同性愛者は結婚できるのですか?またそれに代わる制度がありますか?

2019年現在、日本では同性間の婚姻は認められていません。しかし、2015年11月に東京都世田谷区と渋谷区で、同性パートナーシップを承認する取り組みが始まりました。婚姻契約と異なり、法的な拘束力はないまたは弱いと言われていますが、地方自治体が同性パートナーシップを初めて公認するということで、注目を集めました。その後、同様の取り組みが他の自治体にも広がってきています。
 現在のところ、地方自治体が同性パートナーシップを承認する方法として、以下の二つのタイプがあります。
●要綱 世田谷区をはじめ、多くの自治体は、要綱によって同性パートナーシップを承認する仕組みを採用しています。要綱とは、自治体などが作成する事務上のマニュアルのことをいいます。ここでは一例として、「世田谷区パートナーシップの宣誓の取り組み」について紹介します。この取り組みでは、同性カップルが所定の宣誓書を区職員に提出し、区長に対してパートナーシップの宣誓をおこなうことで、宣誓書の写しと受領書が交付されます。宣誓は比較的簡単な手続きで、かつ無料でおこなうことができます。双方が20歳以上で、区内に同一の住所を有する(または一方が区内に住所を有し、かつ他の一方が区内への転入を予定している)ことが条件とされています。
 法的な拘束力はありませんが、お互いの関係性を説明する際に役立つかもしれません。また、同性愛が社会的に認められることが少ない中で、自治体という公的な機関に同性パートナーシップが承認されることが、当事者の精神的な安心感につながる効果も期待できます。
●条例 条例によって同性パートナーシップを承認する仕組みをつくった自治体もあります。渋谷区は、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を制定し、その中で「パートナーシップ証明」を発行することができるとしました。
条例には、渋谷区営住宅条例や渋谷区区民住宅条例などにおいても、今回の条例の趣旨が尊重されると記されています。従って、この証明書を取得することによって、区営住宅への入居ができるようになると考えられます。また、医療機関における家族だけに認められた措置(面会や治療の説明など)を同性パートナーにも適用する、企業などの福利厚生で差別的扱いがあれば是正されるなどの効果が期待されます。渋谷区の条例では、区・区民・事業者による性的少数者への差別を禁止すると明記されており、違反した事業者の名前を公表することも可能としているので、より影響力があるという意見もあります。
 対象は渋谷区在住の20歳以上の同性カップルで、証明書発行には以下の書類を用意し、区役所に提出する必要があります。①戸籍謄本、②公正証書を二種類(相互の任意後見人契約=2人分、合意契約)。特例により、任意後見人契約が免除されることもありますが、基本的には公正証書を三枚(三つの契約)作成することになります。公正証書をつくるには、任意後見人契約で約一万五千円(一人分)、合意契約で約一万千円かかります。そのほかに、パートナーシップ証明発行の手数料として三百円、公証人に発行してもらう前に弁護士や行政書士に相談をすれば別途費用がかかります。
 このように、渋谷区のパートナーシップ証明書を取得するのには、公正証書をつくる必要があるので、世田谷の取り組みと比べると時間や手間、費用が多くかかります。しかし、あくまで事務上のマニュアルである要綱と異なり、条例は議会で承認され制定されているので、区が取り組みを簡単には中断、縮小できないという利点もあると言われています。
ここでは世田谷区と渋谷区について説明しましたが、2019年7月現在、全国24の自治体で同様のパートナーシップ制度が導入されています。現在検討中の自治体も多く、今後も大幅に増える見込みです。
北海道札幌市・東京都中野区・東京都豊島区・東京都江戸川区・東京都府中市・群馬県大泉町・千葉県千葉市・神奈川県小田原市・神奈川県横須賀市・栃木県鹿沼市・茨城県・三重県伊賀市・兵庫県宝塚市・大阪府大阪市・大阪府堺市・大阪府枚方市・岡山県総社市・福岡県福岡市・福岡県北九州市・熊本県熊本市・宮崎県宮崎市
 こうした自治体の取り組みは、日本の同性愛者の人権を保障していこうとする中で大きな前進であると言えます。しかし、法的拘束力がないまたは弱いこと、婚姻に比べて得られる利点が少ないことなど、自治体でおこなえることには限界があります。現在は実質的に異性間に限定されている婚姻を同性間にも広げること、または婚姻に準ずる制度をつくることを視野に入れた、政府や国会レベルでの議論が望まれます。