多くのゲイは独身男性と見なされるので、制度上は単身者と同じ扱いを受けます。したがって、ゲイであること自体が困難の原因になるとはいえないかもしれません。しかし、ゲイがパートナーと人生を共にするとき、多くの困難に遭遇します。これは、同性カップルが制度上保障されていないためです。ここでは、主にゲイがパートナーとの関係を、異性愛カップルと同じように扱われないことによる不利益について取り上げます。
●賃貸契約 不動産屋は協力的であることが多いが、大家に断られるケースが少なくないといいます。とりわけ男性同士が部屋を借りようとすると、「騒いでうるさいのではないか」、「怪しい人たちなのではないか」など、根拠のない印象論で疑われることさえあるようです。
部屋を借りる際の困難は同性カップルだけではありません。大家が望む世帯の形や借りる人の性質(職業、年齢、国籍など)から外れることで、賃貸契約を拒否されることもあります。安定した収入確保のために慎重になるのは理解できますが、印象論で判断されて住む場所を見つけにくい人が出てしまうのは大問題です。
●医療 パートナーが病気にかかったり事故に遭った場合、病院で自分たちの関係性をどう説明していいか悩む人が多いといいます。パートナーに意識がない場合、関係性を説明しても、症状の説明や手術の意思決定の場に参加させてもらえなかったり、面会できなかったりすることもあります。本人に意識がない場合、日本では戸籍上の親族が代わりに意思決定をする慣習がありますが、実際には親族でないと認められないというわけではありません。しかし、同性カップルを親族と同じように扱ってくれる病院、医療関係者ばかりではないのが現状です。
このため、予めお互いの関係性や意思を文書にしておくカップルもいます。この文書に沿って病院が対応してくれる保証はないのですが、病院側に主張する際の一つの参考資料にはなるでしょう。さらに、この文書をより正式なものにするために、公正証書【注】にしておくカップルもいます。
一方、2016年から神奈川県の横須賀市立病院では、病状の説明を受ける、手術の同意をするなどの権利が同性パートナーにも認められるようになりました。こうした取り組みは、全国に広がりつつあります。
●税金、保険、相続 同性カップルは単身者が二人いるという扱いをされるため、結婚している男女が(片方の収入によっては)利用できる配偶者控除は受けられません。同じように、片方が扶養に入れば健康保険料は免除され、三号被保険者(厚生年金、共済年金の場合)になることもできますが、同性カップルはできません。この制度は両方に一定の収入がある場合は利用できないので、結婚している男女全てに利益があるわけではありませんが、同性カップルにはその選択肢すらもないのです。
さらに、同性カップルが長い間一緒に人生を歩んでいたとしても、相続を受けられるわけではありません。遺言を残して相続(厳密には遺増)することは可能ですが、亡くなったパートナーに父母または子がいる場合、法定遺留分があるため遺言が全て実際に反映されるとは限らないのです。また、法定相続人ではないので、相続税に違いがあります。
●福利厚生 企業など多くの職場では、配偶者や家族向けの福利厚生があります。結婚休暇や忌引き、結婚祝い金、配偶者手当などが代表的です。これらは法律婚だけでなく、事実婚の男女にも認められることがありますが、同性カップルには認められないことが多いです。
しかし、近年、これら福利厚生を同性カップルにも適用しようという企業も出てきています。企業以外では、千葉市が全国の自治体で初めて、同性パートナーがいる職員にも結婚休暇などを認めると発表しました(2017年から)。このように、同性カップルにも異性カップル同様の福利厚生が得られる環境が、少しずつ増えていくことが期待されています。
【注】公正証書とは法律の専門家である公証人が法律に従って作成する公文書のこと。全国にある公正役場でつくることができます。遺言もこの一種です。