法務省は、「イランでは同性愛を禁止する刑法はあるが、立証要件が厳しいため、積極的に運用されておらず、同性愛は一般的に容認されている」とし、シェイダさんは強制送還しても迫害される恐れはなく、シェイダさんの持っている恐れは「十分に理由のある迫害の恐怖」ではない旨を主張しています。(法務省の主張についてはここをご覧下さい)
しかし、これは全くの誤りです。90年代イランにおいて、同性間性行為によって死刑にされた事件のうち、シェイダさん弁護団が知り得たケースを示します。
(1)
○日時:1990年1月
○処刑された人:三名のゲイ男性と二名のレズビアン女性
○場所:ゲイ男性:ナハーヴァンド市 Nahavand、レズビアン女性:ラングロード市Langrood。
○内容:同性愛者に対する処刑を行うイラン政府の政策に基づき、町の広場において斬首刑に処された。
○情報源:イラン国営ラジオ、新聞その他。同事件については国連人権委員会もその発生を認定し、イラン政府に問い合わせを行っている。
(2)
○日時:1992年4月
○処刑された人:イラン南部ファルース地区 Fars のスンナ派イスラム教指導者、アリー・モザファリアン博士
○場所:イラン中央部シーラーズ市 Shiraz
○内容:同性間性行為、スパイ、姦通の容疑で死刑執行。彼の告白はヴィデオテープに録画され、シーラーズ等の街路に設置されたテレビで放映された。
○情報源:アムネスティ・インターナショナル
(3)
○日時:1994年3月14日
○処刑された人:アリ・アクバル・サイディ・シラーニー氏
○場所:不明
○内容:同性愛およびスパイの罪で死刑執行。
○情報源:アムネスティ・インターナショナル
(4)
○日時:1995年11月12日
○処刑された人:メヘディ・バラザンダー氏
○場所:ハマダーン市 Hamadan 首都テヘランの西300キロ
○内容:反復した同性間性行為および姦通により石打ち刑に処される。
○情報源:ロイター通信
(5)
○日時:1997年5月12日 ○処刑された人:アボドルナビ・シャーバクシュ氏
○場所:テヘラン市
○内容:同性間性行為の罪により死刑執行。
○情報源:イランの穏健改革派新聞「サラーム」
(6)
○日時:1997年8月11日
○処刑された人:カリーム・ホセイン・アリザデ氏
○場所:テヘラン市
○内容:同性間性行為の罪により死刑執行。
○情報源:イランの穏健改革派新聞「サラーム」
(7)
○日時:1997年11月
○処刑された人:アリ・シャリフィ氏
○場所:ハマダーン市
○内容:同性間性行為、姦通、飲酒等の罪により死刑執行。
○情報源:ロイター通信
(8)
○日時:1998年12月26日
○処刑された人:H.Mという頭文字の男性
○場所:マシュハード Mashad
○内容:10代の男性を性的に誘惑した罪により絞首刑。
○情報源:イラン人権ワーキンググループ(米国のイラン人NGO)
(9)
○日時:2000年10月15〜16日
○処刑された人:不明(2名の男性)
○場所:コム Qom シーア派の中心都市
○内容:「性的逸脱」の罪により死刑執行。
○情報源:イラン週刊紙「ケイハン・インターナショナル」
(10)
○2000年12月
○処刑された人:オミッド・ナジャフ・アバディ氏
○場所:不明。
○内容:刑務所収容中の同性間性行為により死刑執行。
○情報源:イラン週刊紙「ケイハン・インターナショナル」
当然、これらはイランの裁判制度で「同性間性行為を行った」という事実を認定された上で処刑されたケースです。実際には、これよりもっと多くの人々が同性間性行為の罪により殺害されていると思われます。また、処刑されなくても、拷問により殺害されたり、秘密部隊や民間暴力によって殺害されたケースなども、多くあります。
特徴的なケースを簡潔に紹介しましょう。(1)は、同性愛者五名が公開で処刑されたケースですが、国連人権委員会がこのケースについてイラン政府に事実確認を行ったのに対して、イラン政府は91年1月22日、人権委員会に対して「イスラム法によれば、同性愛者が自らの行為を告白した上、その行為に固執する場合は、死刑が宣告される」と返答しました。また、この処刑に際し、イラン政府の当時の司法長官モルテーザ・モクタダーイー師が、「同性愛という卑劣な行為に対する宗教上の処罰は、それらを犯した人間を両方とも死刑に処すことである」という声明を発しています。同性愛者を処刑するというイラン政府・司法当局によるこれらの方針は、21世紀を迎えた今もなお、撤回されていません。
(2)のケースは、反体制的な宗教指導者に汚名を着せるために「同性愛」という罪名をかぶせ、肉体的・心理的な拷問によって本人に告白を強制させたと思われるケースです。法務省は「同性愛処罰条項は立証要件が厳しい」と言っていますが、行為の有無に関わらず、拷問によって告白を強制された事例がある以上、法務省の主張は成立しません。
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