同性愛というと、いまだに「異常」「倒錯」「変態」という言葉が頭に浮かぶ人がたくさんいます。また、実際に同性愛者に対して、そういう言葉を浴びせる人もいます。つい数年前まで、辞書・百科事典・現代用語事典の「同性愛」の項目には、「異常性欲」「性倒錯」といった説明が並んでいました。同性愛者が自分が同性に魅かれると気づく思春期の頃、自分が何者であるかを知るために、辞事典を引き、「異常」と書いてあれば、受けるショックには計り知れないものがあります。その時に受けた自分を強く否定された感情を、後々まで長く引きずる同性愛者も少なくありません。
同性愛を「異常」「倒錯」「変態」と規定したのは19世紀末の医学者達で、心理学者・生物学者・生理学者なども加わって、近代以降、同性愛者は完全に治療・研究の対象として扱われることになりました。からだじゅうに電極を付け、ヌード写真を次々と見せ、同性のヌードに反応したら電気ショックを与えるという野蛮な治療法まで「発明」され、ごく最近まで実際に行われていました。
現在、国際精神医学会やWHO(世界保健機関)では、同性愛を「異常」「倒錯」「変態」とはみなさず、治療の対象からは外されています。例えば、アメリカ精神医学会は1973年、世界に先駆けて同医学会が発行している精神障害診断基準であるDSM−2の第七版から同性愛についての記述を削除しました。WHOも、「国際疾病分類」(ICD)の93年に発表された改訂第10版で、「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とはならない」という宣言を行っています。日本では、94年12月に厚生省がICDを公式基準として採用し、95年1月にやっと日本精神神経医学会が、ICDを尊重するという見解を出しました。
今日、同性愛は人間の持つ「性的指向」(SEXUAL ORIENTATION‥性的な意識の方向性)の単なる一形態と捉えられています。そもそも人間は、愛情を向ける対象が異性に限られるという単純な動物ではありません。ひとりひとりの中で、「同性指向」と「異性指向」がある一定の割合で存在しているのが人間という「種」の基本的性質で、そのパーセンテージは自分の意志で簡単に変えたり選んだりできない可変性の低いものになっています。(その割合の偏りによって、便宜的に、人間には、「同性指向」と「両性指向」と「異性指向」がある、という言い方をすることが多いようです)ですから、「性的指向」は、「性的志向」あるいは「性的嗜好」と書くのは間違いです。(→くわしくは、「多様な『性』のあり方」の章を見て下さい)
キリスト教・イスラム教・ユダヤ教といった、アラビア半島で生まれた宗教は、同性愛を禁止しています。その理由は、それらの宗教が生まれた頃にまでさかのぼることができ、実は子孫繁栄のためだった、という研究がされています。つまり、同性愛が増えると子どもを生まなくなる。砂漠という厳しい環境で生き延びてきた民族にとっては、子どもをつくって民族が絶えないようにし、まだ新興宗教で信者も少なかった自分達の勢力を拡大する……これは非常に重大なことだったのです。
しかしこうした事実は、同性愛的な行動をする人間がその時代から存在していたという証明にもなります。それから、いわゆる「富国強兵」といった近代の概念の中にも、やはり、この子孫繁栄というイデオロギーが入り込んでいます。
例えば、ナチス・ドイツはそれを極端に進めました。純粋なゲルマン民族だけが生き延びて、優秀な民族として繁栄していくというのがナチスのイデオロギーでした。ナチスが虐殺したのはユダヤ人だけではありません。ロマ(ジプシー)と呼ばれるヨーロッパを流浪していた民族も、ユダヤ人同様自分達ゲルマン民族の血を汚すものとして排除されました。そして、子孫を残さない身体障害者や男性同性愛者もガス室に送るなり、強制労働させたり、いろいろな形で殺していったわけです。男性同性愛者たちは、ピンク色の三角形(ピンク・トライアングル)を囚人服につけさせられ、収容所に送り込まれました。そして、そのピンク・トライアングルが、今やアメリカやヨーロッパでは、同性愛者の解放運動のシンボルになっているのです。(なお、女性同性愛者は存在を無視されていたのと、「子どもを産める」という点で利用できると考えられて収容されなかったと推定されています)
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